なぜn−1で割るのか|不偏分散を少人数の例で確かめる
標本の分散をnで割ると、全体の分散より平均して小さく出ます。平均を標本から出すぶん、ずれの2乗の合計が平均してちょうど分散1つぶん目減りするためです。3枚のカードから戻しながら引ける標本を全通り数えて、n−1で割ると平均が全体の分散に一致することを確かめます。
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この記事の要点
- 標本の分散をnで割ると、全体の分散より平均して小さく出る
- 標本の平均から測ると、本当の平均から測るよりずれの2乗の合計が小さくなる
- 目減りは平均するとちょうど分散1つぶんなので、n−1で割ると埋め合わせられる
- 3枚のカードから戻しながら2枚引く全9通りで、n−1で割った分散の平均は全体の分散と一致する
- 不偏分散の平方根をとった標準偏差は、それでも平均して少し小さく出る
目次
標本の分散を n で割ると、全体の分散より平均して小さく出ます。 n−1 で割るのは、その目減りをちょうど埋め合わせるためです。
目減りの原因は、平均を手元の標本から出していることにあります。 この記事では、3 枚のカードから引ける標本を全部数えて、そのことを確かめます。
÷n と ÷(n−1) の使い分けそのものは、ExcelのSTDEV.PとSTDEV.Sの違いの記事で扱っています。 ここでは「なぜ n−1 なのか」だけを掘り下げます。
小さな全体を 1 つ用意する
袋に、2・5・8 と書いたカードが 3 枚入っているとします。 この 3 枚が「全体」です。
全体の平均は 5 です。 全体の分散は、ずれの 2 乗 9・0・9 を足して 3 で割った 6 になります。
この袋からカードを 1 枚引いて数字を書き留め、袋に戻してからもう 1 枚引きます。 2 枚の数字が、全体から取り出した「標本」です。
標本だけを見て、全体の分散 6 をどこまで当てられるかを調べます。
引ける 2 枚を全 9 通り並べる
1 枚目も 2 枚目も 3 通りあるので、引き方は全部で 9 通りです。 どの引き方も同じ確からしさで起こります。
| 引いた 2 枚 | 標本の平均 | ずれの 2 乗の合計 | ÷n(÷2) | ÷(n−1)(÷1) |
|---|---|---|---|---|
| 2・2 | 2 | 0 | 0 | 0 |
| 2・5 | 3.5 | 4.5 | 2.25 | 4.5 |
| 2・8 | 5 | 18 | 9 | 18 |
| 5・2 | 3.5 | 4.5 | 2.25 | 4.5 |
| 5・5 | 5 | 0 | 0 | 0 |
| 5・8 | 6.5 | 4.5 | 2.25 | 4.5 |
| 8・2 | 5 | 18 | 9 | 18 |
| 8・5 | 6.5 | 4.5 | 2.25 | 4.5 |
| 8・8 | 8 | 0 | 0 | 0 |
| 9 通りの平均 | 6 | 3 | 6 |
÷n で出した分散は、9 通りを平均すると 3 です。 全体の分散 6 の、ちょうど半分にとどまります。
÷(n−1) で出した分散は、9 通りを平均すると 6 です。 全体の分散と、ぴったり一致しました。
1 回ごとの値は 0 だったり 18 だったりと、大きく外れます。 一致するのは、あくまで全通りを平均したときの話です。
3 枚引いても目減りは分散 1 つぶん
同じ袋から、戻しながら 3 枚引く場合も数えてみます。 引き方は 3 × 3 × 3 で 27 通りです。
| 引く枚数 n | 引き方 | ずれの 2 乗の合計の平均 | ÷n の平均 | ÷(n−1) の平均 |
|---|---|---|---|---|
| 2 | 9 通り | 6 | 3 | 6 |
| 3 | 27 通り | 12 | 4 | 6 |
÷n の平均は、2 枚なら全体の 2 分の 1、3 枚なら 3 分の 2 です。 n 枚なら (n−1)/n 倍になり、枚数が増えるほど 1 に近づきます。
÷(n−1) の平均は、どちらも 6 で全体の分散と一致しました。 枚数を変えても、埋め合わせがちょうど合っています。
目減りの正体は「平均を標本から出したこと」
ずれの 2 乗を、全体の平均 5 から測っていたらどうなるかを比べます。 「2・5」を引いたときなら、(2−5)² + (5−5)² で 9 です。
標本の平均 3.5 から測ると、合計は 4.5 でした。 同じ 2 枚なのに、半分になっています。
標本の平均は、その標本のずれの 2 乗の合計がいちばん小さくなる点です。 どこから測るより、標本の平均から測ったときに合計が小さく出ます。
| 引く枚数 n | 全体の平均 5 から測った合計の平均 | 標本の平均から測った合計の平均 | 差 |
|---|---|---|---|
| 2 | 12 | 6 | 6 |
| 3 | 18 | 12 | 6 |
全体の平均から測った合計は、平均すると n × 6 です。 これを n で割れば、ちょうど全体の分散 6 になります。
標本の平均から測ると、合計はどちらの枚数でも 6 だけ減りました。 減った 6 は、全体の分散 1 つぶんにあたります。
n 個ぶんあるはずの合計が、平均すると n−1 個ぶんしか残らないわけです。 だから n ではなく n−1 で割ると、全体の分散に合います。
不偏分散でも、標準偏差は少し小さく出る
n−1 で割って平均が全体と一致するのは、分散の話です。 その平方根をとった標準偏差は、平均すると全体より小さく出ます。
全体の標準偏差は、分散 6 の平方根で約 2.45 です。 2 枚の 9 通りで、÷(n−1) の分散の平方根を平均すると約 1.89 にとどまります。
3 枚の 27 通りでは約 2.21 で、やはり 2.45 に届きません。 平方根は、平均してから取るより、取ってから平均したほうが小さくなるためです。
2 枚の例なら、分散 0 と 18 を平均した 9 の平方根は 3 です。 先に平方根を取ると 0 と 4.24 になり、その平均は 2.12 にとどまります。
分散が引き方ごとにばらつくほど、この差は開きます。 全部の引き方で分散が同じなら、差は出ません。
表計算で STDEV.S を使えば偏りが消える、とは言えません。 消えるのは分散(VAR.S)のほうで、標準偏差には少し残ります。
戻さずに引くと結果が変わる
ここまでの例は、引いたカードを毎回袋に戻していました。 戻さずに 2 枚引くと、組み合わせは 2・5、2・8、5・8 の 3 通りになります。
このとき ÷(n−1) の分散を平均すると 9 で、全体の分散 6 より大きく出ます。 戻さないと同じカードが 2 回出ないので、ずれが 0 の「2・2」のような引き方が消えるためです。
全体が標本よりずっと大きいなら、戻すか戻さないかの差はほとんど消えます。 アンケートや抜き取り検査のように全体が大きい場面では、n−1 で割る考え方がそのまま使えます。
手元のデータで両方の分散を見る
平均・標準偏差計算ツールに数値を貼ると、母分散(÷n)と不偏分散(÷(n−1))が並びます。 2 と 5 を貼れば、母分散 2.25、不偏分散 4.5 と、上の表の「2・5」の行と同じ値が出ます。
どちらを使うかは、手元のデータの外に知りたい全体があるかで決まります。 全体を推し量りたいなら、目減りを埋め合わせた不偏分散を使います。
件数が増えると、n と n−1 の差は小さくなります。 何件でどれくらい違うかは、ExcelのSTDEV.PとSTDEV.Sの違いの記事に表があります。
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