分散の公式「2乗の平均−平均の2乗」の使いどころと注意点
分散は「2乗の平均から平均の2乗を引く」でも求められます。平均が割り切れないときの手計算や、あとからデータが増えるときに便利です。一方、桁の大きい値では引き算で桁が消え、分散が0や負の数になることがあります。式の導き方と、不偏分散にするときの割り方、桁落ちを避ける方法をまとめました。
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この記事の要点
- 分散は「2乗の平均−平均の2乗」でも、偏差から求めた値と同じになる
- 平均が割り切れないときや、データがあとから増えるときに手間が減る
- 不偏分散にするときは、引き算を終えてから n/(n−1) 倍する
- 桁の大きい値では引き算で桁が消え、分散が0や負の数になることがある
- 値の真ん中あたりの数を全部から引いてから計算すると、桁落ちを避けられる
目次
分散は、「値を 2 乗したものの平均」から「平均の 2 乗」を引いても求められます。 式の上では、偏差を 1 つずつ出す方法と必ず同じ答えになります。
この近道は、平均が割り切れないときの手計算や、データがあとから増える場面で手間を減らします。 ただし桁の大きい値に使うと、引き算で桁が消えて、分散が 0 や負の数になることがあります。
偏差から求める基本の手順は、標準偏差の求め方の記事で扱っています。 ここでは近道の式に絞って、使いどころと落とし穴を見ていきます。
2 つの求め方で同じ答えになる
例として、5 つの値「2・4・6・8・10」の分散を両方の方法で求めます。 平均は 6 です。
| 求め方 | 計算 | 分散 |
|---|---|---|
| 偏差から | 偏差 −4・−2・0・2・4 の 2 乗の平均 = 40 ÷ 5 | 8 |
| 近道の式 | 2 乗の平均 220 ÷ 5 = 44、平均の 2 乗 6² = 36、44 − 36 | 8 |
どちらも 8 になりました。 近道の式では、偏差を 1 つも計算していません。
なぜ引き算で分散になるのか
偏差の 2 乗 (x − 平均)² を展開すると、x² − 2 × 平均 × x + 平均² になります。 これを全部の値について平均すると、3 つの項に分かれます。
| 項 | 平均すると |
|---|---|
| x² | 2 乗の平均 |
| −2 × 平均 × x | −2 × 平均 × 平均 = −2 × 平均の 2 乗 |
| 平均² | 平均の 2 乗 |
足し合わせると「2 乗の平均 − 2 × 平均の 2 乗 + 平均の 2 乗」です。 まとめると「2 乗の平均 − 平均の 2 乗」になります。
2 項目で、x の平均がそのまま「平均」に置き換わるのが要です。 平均を先に決めておけば、偏差を経由しなくても同じ値に行き着きます。
近道の式が向いている場面
平均が割り切れないとき
「1・2・4・6」の平均は 3.25 です。 偏差は −2.25・−1.25・0.75・2.75 となり、2 乗すると小数が増えていきます。
近道の式なら、2 乗するのは整数のままです。 2 乗の合計は 1 + 4 + 16 + 36 = 57、その平均は 14.25 になります。
平均の 2 乗は 3.25² = 10.5625 です。 14.25 − 10.5625 で、分散は 3.6875 と出ます。
小数の計算は最後の 1 回だけで済みます。 偏差から求めても 3.6875 で、答えは同じです。
あとからデータが増えるとき
近道の式で必要なのは、件数・値の合計・2 乗の合計の 3 つだけです。 この 3 つを控えておけば、元の値を見直さずに分散を更新できます。
上の「2・4・6・8・10」に 12 が加わったとします。 件数は 6、合計は 30 + 12 = 42、2 乗の合計は 220 + 144 = 364 です。
2 乗の平均は 364 ÷ 6、平均は 42 ÷ 6 = 7 です。 364 ÷ 6 − 49 で、分散は約 11.67 になります。
偏差から求める方法では、平均が 6 から 7 に変わるので、偏差を全部出し直すことになります。
グループごとの集計をまとめるとき
クラスごとに「人数・合計・2 乗の合計」が出ていれば、学年全体の分散もまとめて出せます。 3 つの数をそれぞれ足し合わせてから、近道の式に入れるだけです。
「2・4・6」と「8・10」の 2 組なら、人数 3 + 2、合計 12 + 18、2 乗の合計 56 + 164 です。 5 人・合計 30・2 乗の合計 220 となり、分散は最初の例と同じ 8 になります。
各組の分散を平均するだけでは、全体の分散にはなりません。 この例の 2 組の分散(約 2.67 と 1)を人数で重みを付けて平均しても 2 で、8 に届きません。 組ごとの平均の違いも、全体の散らばりに含まれるためです。
不偏分散にするときの割り方
不偏分散は、偏差の 2 乗の合計を n ではなく n − 1 で割った値です。 近道の式で求めるなら、引き算を終えてから n/(n−1) 倍します。
| 求め方 | 「2・4・6・8・10」での計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 正しい | (44 − 36) × 5/4 | 10 |
| 正しい | (2 乗の合計 220 − 5 × 36) ÷ 4 | 10 |
| 誤り | 220 ÷ 4 − 36 | 19 |
誤りの行は、2 乗の合計だけを n − 1 で割り、平均の 2 乗はそのまま引いています。 答えが倍近くに膨らむので、検算すれば気づきます。
n−1 で割る理由は、なぜ n−1 で割るのかの記事で扱っています。
桁の大きい値では、引き算で桁が消える
近道の式には、はっきりした弱点があります。 大きな数どうしを引いて、小さな答えを出す形になっていることです。
計算機は、数を決まった桁数までしか覚えていません。 Microsoft の説明によると、Excel が扱える有効桁数は 15 桁以内です。
たとえば、9 桁の値「100000001・100000002・100000003」を考えます。 2 乗すると 17 桁になり、15 桁を超えた下の桁は覚えきれずに丸められます。
本当の分散は約 0.667 です。 ところが近道の式を倍精度の計算でそのまま組むと、次のようになりました。
| 値 | 本当の分散 | 近道の式の結果 | 偏差から求めた結果 |
|---|---|---|---|
| 100000001・100000002・100000003 | 0.666667 | 0 | 0.666667 |
| 100000000.1・100000000.2・100000000.4 | 0.015556 | −4 | 0.015556 |
2 段目では、分散が負の数になっています。 分散は 0 より小さくならないので、この値は計算の誤差だけでできています。
負の分散の平方根は取れないので、標準偏差を出そうとするとエラーになります。 0 と出た場合は、散らばりが無いように見えてしまうぶん、かえって気づきにくくなります。
桁落ちを避けるには、先に真ん中あたりの数を引く
全部の値から同じ数を引いても、分散は変わりません。 散らばり方は、値を平行移動しても同じだからです。
上の 2 段目なら、全部から 100000000 を引いて「0.1・0.2・0.4」にします。 これなら 2 乗しても桁は小さいままで、近道の式でも 0.015556 が出ます。
引く数は、値の真ん中あたりの数にします。 0 や遠く離れた数を引いても値は大きいままなので、2 乗の桁も減らず、桁落ちは避けられません。
平均そのものを引くと、偏差から求める方法と同じになります。
平行移動で分散が変わらないことは、分散と標準偏差の違いの記事でも数で確かめています。
平均を先に出してから計算するツールで確かめる
平均・標準偏差計算ツールは、平均を先に出し、各値との差を 2 乗して足す順番で分散を計算します。 近道の式を使っていないので、上の表の値でも引き算で桁が消えることはありません。
上の表の 2 段目の 3 つの値を貼ると、母分散は 0.015556 と出ます。 不偏分散も 0.023333 で、桁は消えていません。 手計算や表計算で近道の式を使ったときの答え合わせに使えます。
近道の式は、度数分布表から分散を出すときにもよく使われます。 そのときに起きるずれは、元のデータを持っていない点から来るもので、桁落ちとは別の話です。 ずれの大きさは、度数分布表から標準偏差を求める記事で計算しています。
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参考・出典
- 浮動小数点演算を使用すると、Excel で不正確な結果が得られます — Microsoft Learn (2026-10-04 閲覧)
本記事は上記の公的機関・公式情報源を参考にしています。最新の情報は各リンク先をご確認ください。
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